【総一郎】
「……まあいい。『人に見せばや あたら夜の月』だ」
【影山】
「後撰集ですか。では『月夜よし 行くも行かぬも遊びて行かむ』ということで」
【総一郎】
「万葉だな」
……???
……なんの話だか全然分かんないけど……ま、いっか。
せっかく仲間に入れてくれるって言うんだから、お誘いに乗っちゃおう。
私は縁側に座り、総一郎さんたちの真似をして夜空を見上げた。
【鈴音】
「わあ……」
思わずそんな声が出ちゃうほど、今夜の月はキレイだった。
手に取れそうなくらい大きくて冴え冴えとしてて。
それだけじゃなくて、縁側の先に広がる庭が、いっそう月を引き立ててる。
昼間は荒れて見える庭なのに、月の光に照らされると、まるで墨で描いた山水画みたい。
【鈴音】
「素敵ですねー……」
引き込まれそうな神秘的な眺めに、うっとりとそう言った。
【総一郎】
「月を見るなら、家中でここが1番だ。祖母もよく、ここに座って月を眺めていた」
【鈴音】
「亡くなった総一郎さんたちのおばあさま、ですか?」
【総一郎】
「ああ。小さかった弟たちは、祖母のことをあまり覚えていないようだが」
【影山】
「思い出します。大奥様とお小さい若が、この縁側に並んで月をご覧になっていたことを」
そっかあ……総一郎さんは、おばあさまのことが好きだったんだね。
こうやって影山さんと月を見ながら、おばあさまを思い出したりしてたのかも。
なんだか、しんみりしちゃう話。
【影山】
「お嬢も召し上がりますか?」
黙り込んでしまった私に、影山さんが七輪の上で焼いていたシシャモを差し出してくれる。
でもなんだろ、これ? ただのシシャモじゃないよ?
【影山】
「焼いたシシャモに、もろみ味噌を塗って海苔で巻きました。どうぞ」
【鈴音】
「へえ……あ、おいしいですね!」
【影山】
「そうですか。若もこれが気に入られたようです」
【総一郎】
「うまいが、そのせいで酒を過ごす。……影山、酒をもう少し持ってこい」
【影山】
「はい。お嬢も召し上がりますか?」
え? それってお酒?
ちょっと飲んでみたい……と言おうとした時。
【総一郎】
「影山。こいつにはオレンジジュースを」
【影山】
「かしこまりました」
……ええ〜、お酒じゃないのかぁ。
本気でお酒が飲みたいわけじゃないけど、
この大人の雰囲気の中でジュースっていうのも、なんか、がっかり……。
【総一郎】
「……未成年のくせに、調子にのるな」
【鈴音】
「はぁい……」
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