……追いかけていった先の部屋のドアが、激しい人の出入りに開け放たれたままになっている。
総一郎さんは、まさに修羅場の真っ只中にいた。

たくさんの医療機器の電子音、入り乱れる足音、早口の指示と返事。
次々と患者さんの体につけられていくチューブやパッド。


【看護師】
「心拍数、毎分100を越えてます」

【総一郎】
「高い!」

【看護師】
「春日先生、オペですか」

【総一郎】
「ああ、おそらく被殻出血だ。今なら開頭すれば後遺症が少なくてすむ」

【看護師】
「では、外科部長に所見取ります」

【総一郎】
「頼む。心筋梗塞を併発していないといいが」

【総一郎】
「このクランケは一過性虚血発作を起こしたことがあるんだな? 
いつだ? 家族に問い合わせてくれ」

【総一郎】
「オペ前にクランケは脳動静脈奇形かどうか調べる必要がある。医局長へ連絡してくれ!」

意味の分からない医療用語が飛び交ってる。
緊迫したやりとりを聞いているうちに、私の心臓までもが痛むような気がしてくる。

一般人の私には、あたりまえだけど、できることなんて何もない。
ただここで立ってなりゆきを見てるだけ。

私の姿なんて、今の総一郎さんの目には、まるで入っていない。
ただ、目の前の患者さんの命を救うために必死だから。

看護師さんや助手に、いくつもの指示を出す総一郎さん。
ここにいる全員が、総一郎さんを信じきって動いている。

私、知らなかった。
こんなに緊張感でピリピリするような場所で、総一郎さんが働いていたなんて。
普通の人なら、プレッシャーで逃げ出したくなると思う。
心の強い総一郎さんだから、できることなんだ。


【総一郎】
「よし、オペだ! 準備はいいか!?」

【看護師】
「はい!」

いよいよ手術が始まる。

ストレッチャーに乗せられた患者さんが運び出され、
その横を厳しい顔の総一郎さんがついて行く。

廊下の奥にある手術室のドアが閉じる音が聞こえ、『手術中』の赤いランプが灯った。


【鈴音】
「総一郎さん、がんばって……」

私は届くはずのない励ましの言葉をつぶやいて、手術室の前からそっと離れた。