……ゆらゆらする。
 それにあったかい。

 背中を何かに支えられてて、すごく安心する。
 さっきまでの、嵐の中みたいなのとは違う、うっとりするくらいの心地よさ。

 ここ、どこなんだろ。
 私、今どうなってるのかな……。


【影山】
「しっかり……つかまってください、私に」

【鈴音】
「……影山さん……?」

 まだ半分眠ったままの私の呼びかけに、耳の後ろから苦笑いの気配がする。
 それで目が覚めた。


【鈴音】
「……えっ? 私……」

 パシャン、と胸元でお湯がはねる。

 ここ……お風呂だ。
 壁も床も、全部が大理石の、広い広いバスルーム。
 その浴槽で、後ろから抱きかかえられてる。

 そうだ、私、ホテルのスイートルームに来たんだった。
 そしてそこで影山さんと……。

 急に心臓が早く強くなりだした。
 さっきまで自分がしてたこと、感じてたことを思い出したから。

 私……影山さんと……。


【影山】
「お嬢……すみません」

【鈴音】
「……え、」

 謝られたことに驚いて振り向く。
 そこには、せつなげにゆがむ影山さんの顔があった。



【鈴音】
「そんな……どうして?」

【影山】
「お嬢に、その…、私は無茶を」

【鈴音】
「だ、だっ……て、それは、私のほうから……」

 そう、私がそれでいいって言ったから。
 やめてもいいって言われたのに、意地を張ったのは私だよ。


【影山】
「ですが……気を失うまでというのは、やはり……」

【鈴音】
「……もう言わないでください……」

 思い出すと、恥ずかしくて消えてしまいたくなる。
 自分のとった行動や口にしたことがよみがえって、叫び出しちゃいそう。


 でも、後悔の気持ちはまるでわいてこない。
 だってあの時、影山さんが戻ってきてくれたんだもん。

 私を『お嬢』と呼ぶ影山さんが戻ってきてくれた。
 それだけで、もういいと思える。


【影山】
「お嬢、じっとしてください。お体を洗います」

【鈴音】
「あ、えっと……大丈夫、自分で洗えます」

【影山】
「しかし。あ、いけません、お嬢」

 浴槽の中で体を起こそうとした瞬間、くらっとめまいがしてお湯に沈みかけた。
 その私を、また後ろから影山さんの腕が支え、そのままぎゅっと抱きしめられた。


【鈴音】
「……影山、さん……?」

【影山】
「立てるわけがない……私はあなたを、もみくちゃにしてしまったのですよ……」